とき : 2003年10月24日(金)15:30〜16:30
ところ : 宮城県・中田町立上沼中央小学校

   
みなさん,こんにちは。静岡大学の堀田でございます。
よろしくお願いいたします。 
 

もうすぐ40歳になります。専門は情報教育。今は静岡大学情報学部にいますが,前は富山大学の教育学部でした。教員養成です。
文部科学省の仕事をする関係で政策のことを知る機会があります。2000年にインターネット博覧会と いうのがありました。インターネットの普及率が2割くらいのときです。富士通と情報教育実践サイト FATHeRS(ファーザーズ)というプロジェクトを立ち上げました。その中の1つの取り組みとして,地域の名物の写真を送るというコンテストをやりましたが,そこで目に付いたのが「はっと汁」 でした。写真を投稿してきたのが皆川先生 。僕は食べたいと思いました。それが3年前くらいです。これは各地の名物を作って,デジカメでとる。それによって地域の特性がわかる,情報のまとめ方や伝え方がわかるという しくみです。まだはっとう汁は食べさせてもらってませんが(笑)。

静岡大学情報学部助教授・堀田龍也先生

 
今日の話の1つめは,教育の情報化がどう進んでいるかと言うこと, 2つめは情報教育について,これは誤解が多いのでちゃんと話します。最後に中田町の皆様に,情報教育をこのへんから進めてみてはいかがですか,ということを提案したい と思います。

政策的に言うと,2005年というのが区切りで,全ての教室にパソコンと高速インターネットが来ます。それを整備するために国から予算が下りています。ただし,それを何に使うかが自治体に任されている。パソコンやインターネットじゃなく,橋や道路になってしまう可能性もあ ります。中田町はちゃんとADSLを引いて,パソコンを整備しています。ただし,ひとつ言えることは,今日の授業を見ても分かったと思いますが,子どもはITを使おうと使わまい と元気だということです。ITを使ったからどうだという話ではないということをまず理解してください。
   
   
2005年の教室イメージ  
 
皆さんの教室にまだ無いけど,皆川先生の教室にあるものがプロジェクタです。これは高価なので整備が遅れていますが,これもそのうち教室に来ます。 そのうちに小型化して安くなるでしょう。接続も無線になり,パソコンを近づけただけでつながるようになります。

今日の授業ではデジタルコンテンツを教材として提示していました。先生あるいは子どもが「動かせる」教材です。これはパソコンじゃないと難しいことですね。パソコンじゃなくてもいいことはあるけど。環境が揃っていると,こういう教材を持ってくるだけでポンと授業に取り入れられることにな ります。これから先の課題は,こういういいものをどこから持ってくるかということになりますね。

   
パソコンだけで教えるわけではありません。今日の授業でも,折り紙で操作したり,黒板に書いたり していました。板書がなくなるわけではありません。ITを使ったとしても,それはITが便利なときに使うだけ,直角を確かめるときには,三角定規を当てるということは変わらな いのです。今日の皆川先生の授業はIT活用と言っているけど,よく見て見るとそれほどITを使っているわけでは ないのです。提示しているときに使っているに過ぎません。

それから,子どもたちがパソコンを使いこなしていました。あれは普段から使っている証拠です。コンピュータが普段の活動の中に入っている 証拠です。パソコンを使った授業を,専門家だけがやる時代ではありません。それが2005年の教室です。ただし,皆さんが何かを示しながら授業をする,そういうことは何も変わりません。

今日の学習はITではなくて算数でした。ITを学んだわけではないのです。だから算数の授業として深まったかどうか,ITを使って提示したものが子ども達の理解を生んだかどうか,そこが議論されるべき でしょう。先ほど,簡単に話しましたが,僕なりの見地で言うと,教科書やノートで提示したり,操作したり,実は同じ事を繰り返しているけれど,バリエーションが変わって体験している ことになります。同じことを繰り返すにしても,微妙に活動の仕方が違ってくることで,子どもが学習への興味を失いにくいということがあります。 今日の授業では,四角形の概念指導について,途中漏れがあったとしても,繰り返しによって定着したと思います。

     
   
授業で,子どもはノートを取っていました。子どもがパソコンでノートを取ることはこれからもしばらくはまずないでしょう。教科書がなくなることもな いでしょう。ITを使ってそれだけですごいというのは今だけの話で,これからは使っただけに過ぎないと言われるようになります。

とは言え,今日の授業は普段から子どもがITを使っていることが分かるものでした。自分のノートをプロジェクタに投影するのに,立ち位置がどこで,どういう風にノートを置くと どのようにスクリーンに映るかということが分かっているのです。これは普段からやっているからできることです。 皆川先生は,ノート全部を投影すると子どもたちの思考が発散するから,ポイントのところだけ紙で隠すようなことをしていました。余計な文字を隠した紙は全然ITじゃないけど,これが大事 ですね。普段から使っているからこそ出てくる「生活の知恵」といえるでしょう。
   
教室後ろには,デジカメで撮影した写真に子どもがコメントをつけ ている掲示物がありました。普段からデジカメを使っているわけです。それを支えているのが,教室にあったテレビです。あれはデジカメでスピーチ で活用しているものです。子どもがデジカメで撮影した画像をすぐに確認できます。重要なことは,普段から使っていて日常化しているということです。「コンピュータ様様」 ではなく,普段から電源が入っていて,使いたいときにすぐ使える。いくつかある手段のひとつとしてITを利用するのです。

これは皆川先生の以前の実践です。原稿用紙の使い方を示すときに,原稿用紙を写した先(スクリーン側)に先生が書き込んでいます。国語の学習 では,非常に有効な方法です。

 
今回はマグネット型のスクリーンを黒板にペタっとはって授業をしていましたが,学校によっては黒板をホワイトボードにしたところもあ ります。黒板とチョークという文化は,学校特有のものですね 。他の所ではもう使っていません。コストダウンの面から考えるとホワイトボードという選択肢もあります。プロジェクターもホワイトボードにそのまま映せます。
   
コンテンツを提示して,算数の授業をするような例もあります。これは別の学校で行われた今回と同じ長方形の授業 です。そういうときに何を提示するのがいいでしょう。(直角が2つある四角形をスクリーンに提示して)「これは長方形ですか?」というと悩む 。(しだいに長方形に近づけていって)「これは?」「これは?」と画面を少しずつ変えながら提示してみる。それで向かい合う辺はどんな特徴があるか気づくでしょう。今日は頂点と辺を一緒に教えたので子どもが混乱したよう ですが,後で「これは辺と言います」といっても良かったでしょう。ともかく,プレゼンテーションソフトで四角を書くだけでこういう授業ができます。パソコン を使えば,図形などに変化をつけることで,疑わしいものを提示しやすくなります。

今日,皆川先生はWeb上で見つけてきたコンテンツを使っていました。これを作った人はプログラムができる人です。でも皆さんどうですか?なかなか出来ないでしょう。そういうとき誰かの作ったのを借りてくればいい のです。

三角形の面積の求め方のアニメーションコンテンツもあります。

こういうものは教科書だけでイメージできない子どもには朗報です。ここで問題になるのは,いつこれを見せるかとうことです。最初に見せるか最後にみせるか,途中で見せるか。このコンテンツにはナレーションが入っている のですが,音声を意図的に消して子どもにナレーションを入れさせる実践をやった人もいますし,授業の最後で見せた人もいました。

もうひとつ,家庭科の野菜の切り方指導での活用です。導入場面ですが,たまねぎの炒めたものを食べ比べて,味が違うという授業です。これは切り方が違うから味が違うんですね。切り方をビデオ で撮影して,パソコンで切り方の動画を見ながら切るのです。なかなか一回見ただけではできないですからね。この際,一番の注意事項は「画面を見ながら切らない 」ということ。手を切りますからね。

全国のライブカメラとライブセンサー,気温などが分かるWebサイトがあります。冬の画像 を見てみましょう。福島は晴れているけど,新潟は気温としては同じだが,曇っています。こういうことがリアルタイムで分かるのです。こういうものは専門化が技術者と一緒に作ってい ます。教師の仕事は,これをどこで使うかな?って考えること。皆さんの教室にパソコンとインターネットが来ます。あとはどこにどういうものがあるのか探せるかが問題 です。もうすぐ,教科書会社のページから教科書に準拠したコンテンツが探せるようになります。

デジタルのコンテンツはたくさん作られています。あとは使う皆さんの問題。使わない方がいいときもありますが,使った方がいいときに,どうやって使うか,どうやって子どもに力をつけるかは教師の責任 です。皆川先生の授業はこれを考えるいい機会になったと思います。
 
 
政策の動向−2005年をイメージする−
 
政策はこのようになっています(図)。教師の仕事の仕方も変わってくると言われています。先ほども言ったようにパソコンとインターネットが全教室にくるわけです。そうすると使わないのは担任の責任 です。パソコン室は,あれは何とか先生がやってるから私は・・・というふうになるかも知れないけど,教室にきたらそうはいきません。
 
学校にパソコンはすでにたくさん入っています。現在は,子ども1人当たりのパソコンは9.7人に1台,これが日本の平均です。2005年度にはこれを5.4人に1台に します。これでも米国の2002年度くらいの水準なので,日本は遅れているということになります。地域によっても整備が進んでいたり遅れていたりしています。ちなみに ,上沼中央小は3.6人に1台で,2005年の基準をクリアしています。
 
と説明してきたように,2005年の教室環境は国が整備を進めています。その背景には,これからの時代には子どもがこれを使わないといけない,格差を是正しなければいけないという切迫した事情があ ります。

文科省は情報化に対応した教育を三つに分けて定義してい ます。 1つめは「情報教育」,2つめは「学習指導における情報手段の活用」,これは今日の授業がそれにあたります。3つめは「校務の情報化」。今は,逆に大変になっているということもありますが,仕事にどうITを導入して効率化するかと いうことです。ホームページに何を掲載するかということも問題になってきています。

 
 
情報社会を生き抜く力とは−情報教育−

情報教育とは,「情報化社会を生き抜く力」を育成することです。情報化社会では,情報機器ではなく「情報」をどう扱うか,情報をどう見抜くか,それが重要 になってきます。

皆さん,冷蔵庫を使いますか?冷蔵庫はどうして冷えるか知っていますか?冷える仕組みは知らないけど,どう使うと便利かは知っていますね。車もそうです。ユーザーとしての知識は ,使うためのノウハウを知っていることに意味があります。携帯電話で話すときに,今どこ?って聞くようになりましたね。家の電話ではそういうことはしません。携帯では 「○○君いらっしゃいますか?」とは聞きません。常識だと教えられたこと,マナーだと思ってきたことが変わったりすることがあります。道具が生活の様式を変えている のです。それを子どもに伝えるというのは教師の使命のひとつだと思います。

テレビの操作は子どもに教えません。でも,子どもはだいたいテレビを操作できます。家に帰ると学校とは別のテレビがある。だから操作を教えても意味がないんです。学校で何を教えるかというと,それは 「付き合い方」です。普及段階では付き合い方を教えるのが重要です。今,パソコンの操作を教えているのは,過渡期だからです。普及したら,パソコンとの「付き合い方 」の指導がメインになってくるでしょう。

僕は情報化社会で重要な点は三つあると思っています。まず,ITは道具だからそれをつかって仕事を上手にやる,生活を豊かにするということです。次にIT社会。私たちの社会はITに支えられてい ます。銀行のATMとか社会が ,すでにITによって支えられていることを知ることが大事です。最後に,ITで扱うのは情報だということです。情報化社会では情報がいろんな手段でやってきます。どんな情報がやってきても ,それを受け取って噛み砕いて使うのは自分であり,情報を読み書きする力,これは総合力になってきますが,それが重要です。

「コンピュータを使える」ということに今は目が言っていますが,本当はこちらを取り扱わないといけないのです。そのために日常化が重要,普段から使うことが重要です。皆川先生の授業が日常に支えられているといったのは,この意味です。 どれがITでどれがITじゃないかは,子どもから見ればどうでもいいこと。便利なものを学習で使っている,それだけなのですから。
 

したがって,情報教育にも基礎基本があって,発揮する場があるわけです。教科と同じ ですね。研究授業では発揮する場を見せることが多いです。今日もそうでした 。でも,その前には鍛えるプロセスがあって,普段から使っていることが大事です。情報を読み書きする力は細かく見ていくと5つあって,そのうちの4つはコンピュータとは関係 がないものです。説明文が読めるとか,グラフが読めるとか,国語や社会科と大いに関係があります。その意味で教科の基礎とあまり変わらないのです。

今のような目標を達成するために,ある学校では調べ方ワークブックを準備したり,図書館に掲示物があったりします。学習環境が子どもにそういう風に働きかけているかどうか,そういうことが重要です。
 
 

情報教育にも 「九九」がある
 
最後に,情報教育にも九九があるということを話します。小学校のとき,九九を覚えたときは念仏のように覚えました。その後,それを使う場が山ほど出てきたということがあります。最初は意味がわからず教え込んでも ,後々ものすごい役に立ったということがあったのです。キーボードがそれに当たります。キーボードは独学ではなくて段階を経て教えていけば,何年生でもできるようにな ります。それをやっているのがキーボード検定サイト「キーボー島 アドベンチャー」です。上沼中央小は非常に成績がよく,全国でもトップクラスです。

作文にワープロが便利なのは大人なら誰でも知っています。でも,子どもは入力が遅くて上手くいきません。それをサポートするのがキーボー島です。ストーリーがあって,キーボー島の島民と対戦 します。それがステップになっていて,1文字の入力から長文の入力まで,級が上がるごとに正確さや速さが設定されています,賞状も印刷できます。
 

全国ランキングに「都道府県クイズ」というものがあります。これは,キー入力が速いだけではダメで,県名を知っているだけで もダメです。つまり,実際にキー入力するときのように,知識と操作を同時にやる必要があるわけです。子どもには非常に楽しんでやってもらっています。また,掲示板もあります。掲示板なので不適切な書き込みがあったりして,それはモラルの指導などになりますが,掲示板の本当の目的は,相手に向かって文章を書く,キーボードを打つ経験をさせる,と いうことにあります。
 
教師用には,教材やシートやローマ字表などを印刷できるように用意している。ぜひご活用を。
 
   
   
中田町のみなさんへ−ここからはじめよう−
 
最後に,「ここからはじめよう」ということで中田町のみなさんに提案したいと思います。
1)まず,教育の情報化は後戻りしないのであきらめてほしい,ということです。子どもに力をつける目的の「教育の情報化」は,1人では大変なことがあ ります。だからみんなでやるといいです。
2)次に,情報教育の基礎学力は学校の責任だということです。韓国では高速回線がバーって普及した後,子どもたちがインターネット中毒のようになったり,情報モラルが社会問題になって,どうなったかというと,学校が責められている のです。なぜ学校では指導しないのか,と。日本ではまだあまりこういう事例はありませんが,学校の責任になってくる部分があるということです。
3)最後に学校だけで教育する時代ではない,ということです。先生がITもやり体育もやり,全部やり,というわけではなくて,幸い教師はチームを組んでいますから,得意な部分を生かして,出来ない部分をカバーして,ITを使うことができ ます。他校や家庭とつながるにもITは便利です。もちろん学校へ保護者がたくさん来れれば良いわけですが,なかなか来ることはできない。だから ,上沼中央小学校のようにホームページで情報発信しているのは大変良いことです。
 
 
今日の皆川先生の授業でもそうでしたが,できるところから始めていただければ,というのが今日の趣旨でした。
ご静聴,ありがとうございました。
 
 

(記録協力:静岡大学大学院情報学研究科堀田研究室・1年 森下誠太さん)

access/(since2003.10.27)

 

Copyright©1997-2003.Hiroshi Minakawa

ホーム 上へ